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監督・脚本 ハンネス・ホルム
62年スウェーデン生まれ。俳優としてキャリアをスタートさせ、81年に『Inter Rail』でデビュー。その後、TVシリーズにも出演し、出演、監督、脚本をこなしたコメディシリーズ「S*M*A*S*H」(90)で成功を収める。『One In a Million』(95)で長編監督としてデビュー。その後、スウェーデン映画史上興行成績ナンバー1となった『Adam & Eve』(97) など、多くのコメディ作品の脚本と演出を手がけ、マルティナ・ハーグ原作のベストセラーを映画化した『青空の背後』(10)は、トロント国際映画祭などで上映され、日本でも14年のスウェーデン映画祭で上映された。本作は、16年のゴールデン・ビートル賞で6部門にノミネートされ、観客賞など3部門を受賞した。
ディレクターズノート
作品の冒頭では、ただ機嫌の悪い老人に見えるオーヴェを主人公として、普遍的なストーリーを語りたいと思いこの企画はスタートしました。オーヴェの向かいに引越してくる妊婦のパルヴァネとの思いがけない友情が物語の軸になっています。オーヴェは妻を亡くしたばかりで、パルヴァネはオーヴェと妻ソーニャとの感動的なストーリーを知る事になります。彼にとってソーニャは人生の全てだったのです。
オーヴェは母親を7歳で亡くし、仕事一筋で厳格な父親から仕事の重要さと道徳観を学んで育ちました。映画は、年老いたオーヴェが厳しく近所を見張っている現代から始まります。それから過去を遡り、オーヴェの人生と亡くなった妻ソーニャとの感動的なストーリーが展開します。ソーニャを亡くしたオーヴェは、彼女に対する愛を断ち切れずに自殺を試みますが、彼を必要とする周囲の人間が邪魔をして達成できません。映画が進むにつれて、オーヴェが非常に正義感の強い男性であることがわかってきます。オーヴェは身近にいる父親や祖父のような普遍的な男性像でもあるのです。彼の考え方や意見が、時にはドラマに時にはユーモラスに作品の中で語られます。
監督としてもっとドラマチックな部分に焦点をあてたいと考えましたが、オーヴェのあまりにも古い価値観によって醸し出されるユーモアも重要な要素となりました。隣人のパルヴァネとの間に友情が生まれていくにつれ、“おじいちゃん”と呼んで迎えてくれる彼女の家族に対して、オーヴェは親近感を感じていることに気付きます。ソーニャとの関係が語られる回想シーンは、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』(85)や『フォレスト・ガンプ』(94)へのオマージュを込めました。『アバウト・シュミット』(02)や『恋愛小説家』(97)もお手本にしています。本作品が人々の心に触れ、気分を良くし、笑わせられたらと願っています。笑いと涙の旅こそが、シンプルな人生そのものなのですから。
原作 フレドリック・バックマン
81年スウェーデン生まれ。12年に出版された 「幸せなひとりぼっち」が累計発行部数250万部を超え、一躍世界的なベストセラー作家となる。13年に発表した「My Grandmother Asked Me to Tell You She’s Sorry」、14年に発表した「Britt-Marie Was Here」も続いてベストセラーになる。すでに著作が30ヶ国で出版されており、若くして人気作家の仲間入りを果たし、着実にキャリアを積んでいる。
原作について
フレドリック・バックマンはコラムニスト、ジャーナリストとして働いていたある日、頑固で気難しい父親と買い物に行ったときのエピソードをブログに投稿する。その記事には、予想外の強い反応があった。“父とそっくりだ”“夫もいつもそんな感じで困る”――ブログの読者からそういうコメントが相次いだのだ。これがきっかけとなって書きはじめた小説が、12年に発売された作家としてのデビュー長篇で『幸せなひとりぼっち』の原作、「En man som heter Ove(オーヴェという男)」だ。
59歳、妻を亡くした独り者で、とことん無愛想…そんなオーヴェをはじめとする登場人物たちは、原作小説と映画でほとんどイメージが変わらない。熱狂的な支持を受けた原作にほぼ忠実な映画化だといえる。もちろん、小説では、オーヴェの個性豊かな隣人たちのエピソードはもっと詳しく書かれているし、猫の登場するシーンも多い(愛がある描写から察するに、バックマンは大の猫好きにちがいない)。映画がラストを迎えた後、皆がどのような生活を送っているか知りたい方は、ぜひ原作も手に取ってみてほしい。
本書は人口990万人に満たないスウェーデンで80万部を超えるベストセラーとなり、35ヶ国での刊行が決まっている。「子供時代、社会で受け継がれていくもの、そして愛する人と過ごした時間を、バックマンは心を込めて描く」(スウェーデン/ヨーテボリ・ポステン紙)など、人生の苦しみと喜びを見事に描き出したとして高い評価を得た。英米圏でも「人生を肯定する本」(英/デイリー・エクスプレス紙)、「“今年度もっともチャーミングな本”大賞があれば、この小説が圧勝だ」(米/ブックリスト誌)などと多数の有名紙誌で絶賛されたほか、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストには連続ランクインしている。Amazon.comにも5,000超のレビューが寄せられ、全世界での累計部数は現時点で250万部を超えている。オーヴェがたどる人生の道のりに、今後も国境を超えて共感の輪が広がるのはまちがいない。
「幸せなひとりぼっち」(坂本あおい訳/ハヤカワ文庫刊)2016年10月発売
cast
ロルフ・ラスゴード(オーヴェ)
55年スウェーデン生まれ。マルメ演劇アカデミーにて演技を学んだ後、ランツクローナのスコーネシアターに参加。そこで、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」(79-80)に出演して評価される。その後、イェーヴレに移り、ピーター・オスカーソンと共に劇団を設立。舞台俳優として着実にキャリアを重ねる。チェル=オーケ・アンダーソン監督『Night of the Orangutan』(92)で映画デビューし、スウェーデンのアカデミー賞と言われるゴールデン・ビートル賞で最優秀主演男優賞を授賞。その後、第72回アカデミー賞®外国語映画賞にノミネートされ『太陽の誘い』(98) や『ゴシップ』(00) など、コリン・ナトリー監督作品に数多く出演。さらにヘニング・マンケル原作のクルト・ヴァランダー刑事シリーズの映画化では、ヴァランダー刑事を演じ、人気を博した。他の出演作にはスザネ・ビア監督の『アフター・ウェディング』(06)などがあり、本作では再びゴールデン・ビートル賞の最優秀主演男優賞を授賞した。
イーダ・エングヴォル(ソーニャ)
85年スウェーデン生まれ。09年に役者としてデビューして以来、TVシリーズや演劇などで実力派の若手として着実にキャリアを重ねてきた。11年には、ストックホルムシティシアターでチェーホフの「桜の園」に出演。続けて、ピューリッツァー賞・トニー賞など多数の演劇賞を受賞したトニー・クシュナー作「エンジェルズ・イン・アメリカ」などに出演し、実力派として注目された。人気テレビシリーズ「The Team」(15)の他、続々と待機作が控えている。
バハー・パール(パルヴァネ)
79年イラン生まれ。10歳の時にスウェーデンに移住。28歳で女優として本格的にデビューした後、舞台と映画で活躍。近年では、映画監督としても活躍しており、脚本も手がけた「Rinkebysvenska」(15)が昨年TVで放映された。本作のパルヴァネ役で、16年度ゴールデン・ビートル賞助演女優賞にノミネートされ、高い評価を受けた。